平素はあいだ米のご注文をいただきましてまことにありがとうございます。
さて、農薬などの影響の少ない美味しく安全・安心なお米を提供すべく努力しつづけてきたあいだ農場ですが、昨年の311福島原子力発電所事故による放射能汚染問題という思いも掛けぬ事態を受け、お客様へどのようにお米の安全・安心を確認していただくのがよいものか、日々検討を重ねております。
もちろん、すぐにできることとして昨年収穫を迎えた10月には、玄米とあいだ農場の土壌検査を実施し安全性を確認しました。その検査結果は、別紙①、②にあるとおりです。これらは、玄米、土壌とも定量下限値(注)が10ベクレルのもと「検出せず」となっています。
ところで、消費者の方々の中にはさらに精度のよい実際の汚染濃度のわかるデータが欲しいという方もいらっしゃるようです。
そんなことから、このたび新潟県環境分析センターに依頼して、放射能汚染状態がはっきりと出やすい「米ぬか」の状態で汚染度を測定してもらいました。その結果が、別紙③です。今回、それぞれの放射性核種の検出限界(注)は1.0より小さく、その条件でヨウ素131、セシウム134は検出限界未満、セシウム137は1.3ベクレル/kgとなっています。
あいだ農場としては、データをお見せして最終的判断はお客様に委ねるという立場しかとりようがありません。いくら国の安全基準があるにしても、ご家族の健康————とりわけ幼いお子様たちへの影響をご心配されている方々には、ご自分で判断できるデータを開示することが、あいだ農場の務めと考えております。
そんな中、あるお客様から「あいだ米」の放射能汚染に関するいろいろな参考情報をいただきました。他のお客様にも有益な情報かと思いますのでその方の了解を得てここにご紹介いたします。
[1]米ぬか検査結果について
米ぬかのセシウム濃度は、玄米の8倍
昨年の暮れに農林水産省によって発表されたニュースです。ただし、記事にもあるとおりあくまで「推計結果」ですから、その使用法には注意が必要です。ただ、ざっと玄米と米ぬかのセシウム濃度の比は1:8くらいとみられるようです。逆にいうと、米ぬか検査データを8分の1すれば、玄米のセシウム濃度の目安が計算できることになります。
リンク先:http://www.47news.jp/CN/201112/CN2011121901002030.html
[リンク先から削除されている場合もありますから、以下にその記事を載せておきます。]
(2)過去の核実験などによる玄米のセシウム濃度について
独立行政法人農業環境技術研究所では「農業環境中に存在する放射性核種の一般公開システム」を構築しています(http://psv92.niaes3.affrc.go.jp/vgai_agrip/)。
上記にある「主要穀類および農耕地土壌の90Sr と137Cs 分析データ一般公開システム」 から次のデータが公表されています。
グラフ1(http://bit.ly/JKBJmh)
表1(http://psv92.niaes3.affrc.go.jp/vgai_agrip/samples/)
つまり、昨年の原発事故が無かったとしても、環境中にあるセシウム(おもに過去の核実験など)によって玄米には一定のセシウム濃度をもっていたということです。
このグラフ1によれば、1963年ごろのピーク時にはkgあたり10ベクレルも玄米に入っていました。その後、どんどん下がり60年代後半には1ベクレルぐらい、そして80年代前半で0.2ベクレル、80年代後半から90年代にかけては0.1ベクレル、さらに2000年になると0.05ベクレル程度になってきています。
以上(1)と(2)を考慮すると、今回の米ぬかの検査結果について次のようなことがいえそうです。
まず、ヨウ素131、セシウム134については検出限界以下ですから、事実上汚染されていないと判断してよいでしょう。
いっぽう、今回の米ぬかに検出限界以上で検出されたセシウム137は1.3ベクレル/kgでした。したがって、1.3ベクレルの8分の1である0.16ベクレルが玄米に入っている目安となります。このうち0.05ベクレル程度は原発事故前にも入っていたとしていいのですが、結局それらを総合してどうみるか、ということになります。
いろいろな見方はお客様にお任せするとして、ここでは一つ、表1のデータをみると日本海側で1980年代半ばくらい(例えば1986年)に穫れたお米と同等の玄米という見方もできることを付記させていただきます。
そして、今回の米ぬか検査の直接的きっかけとなったお客様からの一言「できれば1ベクレル/kg以下のお米を食べたい」とのご要望には十分お応えできる結果であることはご理解いただけるでしょう。
[2]土壌検査結果について
土壌の検査は、冒頭にも述べましたが昨年の10月に実施しております。結果は、定量下限値10ベクレル/kgにおいて「検出せず」でした。
土壌についてはやはり農業環境技術研究所から参考となるデータが公表されています。2010年の水田耕作土壌のセシウム濃度データ(表2)をみると、以下のように日本海側では7.0±3.7ベクレル/kgとなっています。つまり、土壌においても過去の核実験等による残留汚染があり、昨年の311以前において平均7ベクレル/kgのセシウム濃度をもっていたことがわかります。
表2(http://psv92.niaes3.affrc.go.jp/vgai_agrip/soil_samples)
したがって、あいだ農場の昨年の土壌についての検査結果「定量下限値10ベクレル/kgで不検出」は、バラツキを考えればほとんど311の影響は無かったと考えられます。
土壌から米へ移行する放射性物質の量については、日本土壌肥料学会でデータがみられます。セシウム137の場合、以下のとおりです。
表3(http://jssspn.jp/info/file/4012.pdf)
この表3によれば、玄米の移行係数は0.0033です。つまり、10ベクレルの土壌からとれる玄米には10×0.0033=0.033ベクレル/kgのセシウム137が含まれるということです。セシウム134の移行係数も同じ程度と考慮してざっくり2倍しても0.066ですから、十分に低い濃度といえそうです。
ただ、移行係数は土壌の状態によりかなり異なるようです。カリウムの少ない土壌では移行係数が大きくなり、また有機栽培では化学肥料で育てた作物より30倍大きくなるという報告があるなど、まだデータが出揃わない状況ですから、あくまで参考程度に考えておく必要があります。
[3]あいだ農場の農業用水について
最後に農業用水について簡単に触れさせていただきます。というのは、ネット環境を利用する人たちの一部において、あいだ農場の近くを流れる加治川の源流・上流が福島県との県境にある飯豊(いいで)連峰であることに着目し、あいだ農場の農業用水は放射性物質に汚染されているのではないか、との疑惑のあることを仄聞したからです。
確かにあいだ農場のすぐそばには加治川が流れていますし、従来「あいだ農場の農業用水は加治川水系より取水」というご案内をしていたことも事実です。
しかし、今回の問題に直面して詳細な事実をここで明確にする必要を感じましたので以下に申し述べます。
実は、加治川水系とはいえ、実際にあいだ農場で使用している農業用水の取水は、坂井川および姫田川という支流で用水の99.6%を占めます。地図でみてみましょう。
Aは、あいだ農場です。そして、実際の農業用水の取水口のある坂井川、姫田川は地図にあるように二王子岳(にのうじだけ)を水源としています。二王子岳は、新潟県新発田市にあり、越後山脈の北部に位置する山です。そして飯豊連峰からはやや離れている独立した山であり、福島県からみると一段日本海側に寄っていて、飯豊連峰の陰に隠れた山といえます。
なお坂井川・姫田川は2級河川ですから、新潟県(新発田地域振興局)が管理しています。また、黒岩用水ポンプ場と小松用水ポンプ場の運営管理するのは加治郷土地改良区です(加治郷土地改良区:http://www.doko.jp/search/shop/sc70349913/)。
以上、放射能汚染問題についてのあいだ農場からのお知らせでした。このお知らせをつくったのは、お客様の希望として「できれば1ベクレル/kg以下のお米を食べたい」というご希望があったからです。
あいだ農場としましては、できる限りお客様のご要望に応えるコメ作り、保管をしてお届けをすることを基本にしています。何かご不明の点がありましたら、お問い合わせください。可能なかぎり誠意をもって対応させていただく所存です。
それでは、今後ともよろしくお願い申し上げます。
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(注)食品の放射性物質の試験法と検査結果の出し方については、3.11以来厚生労働省から通知あるいは事務連絡が出ています。昨年9月に出た事務連絡には、「検出下限値」を示すよう指導されていましたが、最新の通知であることし平成24年3月15日付け「食品中の放射性物質の試験法について」では、「検出限界」を付記のうえデータを記載、または不検出と記載するよう改められました。そのため、上記検査結果の書き方も変わっています。詳しくは以下の通知をご覧ください。
●平成23年9月29日「食品中の法氏や性物質の検査結果について」
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001q51k-att/2r9852000001qjsv.pdf
●平成24年3月15日「食品中の放射性物質の試験法について」
http://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/dl/shikenhou_120316.pdf
さて、このたび米ぬか検査を実施した新潟県環境分析センターへこの違いについて問い合わせたところ、次のようなことがわかりました。
検出限界や定量下限値が有効であるのは、従来化学分野の検査測定において十分な試料数の場合で、通常3σを検出限界、10σを定量下限値とするのが一般的でした(σ[シグマ]は標準偏差のこと)。検出限界は、統計的にあらわれるデータのバラツキから導き出される最小の検出誤差であり、したがってこれ以下の量では検出されたとも、されていないとも何とも言えないということを示します。また定量下限値とはこの値以上であれば、検出された化学物質がこれこれの量をもっていたとしてよい、つまり量を定めること(定量)が妥当であるという境界値を示しています。それでは、検出限界と定量下限値との間の値についてはどうみるか。
これについては一応定性的にその化学物質があるらしいが、検出された一定の量を確かなものとしては認められない、という立場をとっていたようです。したがって、検査機関によってはこの区間のデータは「痕跡」として出すにとどめ、あくまで量的信頼性を保証しないものでした。
ところが、3.11による放射性物質の検査測定においては化学と同じように定量下限値を定めることが有効なのか、あるいは定めることが有効だとしてもそれを何σにすればよいのかがいまだ明確 になっていない状況にあるようです。そのため暫定的に昨年は検出下限値(これもあいまいな言葉で、検出限界と定量下限値を状況によって使い分ける? 国からの説明は一切無かったとのこと)を明示してデータを表示するよう連絡通知があったことになります。そして、ことし3月の通知では、今度は検出限界のみ記載のうえ不検出、あるいは生のデータをそのまま記載するようになっています。
ただし3月の通知には、国の定めた基準値に対して75%~125%の値が検出されたときには、その値が10σ以上になるよう測定時間を調整するよう書いてありますから、基準値に対しては暫定的に10σをひとつの目安にしているように思われます。
以上の説明は国からはっきり明言されているわけではなく、あくまで上記通知を読むと、検査の現場ではそのように読み取るしかない、とのことでした。むしろ国の方針がもうひとつあいまいなままで困っているようにもお見受けしました。参考まで、追記しておきます。
(以上)