COPDはchronic obstructive pulmonary diseaseの略であり、日本語では慢性閉塞性肺疾患のことです。タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じた肺の炎症性疾患であり、喫煙習慣を背景に中高年に発症する生活習慣病といえます。
もくじ
1.どのような病気?
2.原因は?
3.どのような症状?
4.診断は?
5.治療法は?
(1)薬物療法
(2)非薬物療法
6.セルフマネジメント
7.栄養療法
8.COPDリンク
40歳以上の人口の8.6%、約530万人の患者が存在すると推定されています(NICE study)が、大多数が未診断、未治療の状態であると考えられます。COPDは20年以上の喫煙歴を経て発症する病気です。日本でも過去の喫煙率上昇の影響がCOPDによる死亡者数を増加させてきたと考えられます。
最大の原因は喫煙であり、喫煙者の15〜20%がCOPDを発症します。タバコの煙を吸入することで肺の中の気管支に炎症がおきて、せきやたんが出るようになります。さらに気管支が細くなることによって空気の流れが低下したり、気管支が枝分かれした奥にあるぶどうの房状の小さな袋である肺胞(はいほう)が破壊されて、肺気腫という状態になると、酸素の取り込みや二酸化炭素を排出する機能が低下します。COPDではこれらの変化が併存していると考えられており、治療によっても元に戻ることはありません。これまで、男性の喫煙率が高かったため死亡者数も男性の方が多いですが、女性の方がCOPD発症リスクが高いという報告も発表されています。最近、加熱式タバコや電子タバコについても正確なデータはありませんが、日本呼吸器学会からは決して安全が証明されたわけではないという見解がしめされています。
電子たばこも安全ではありません。
歩行時や階段昇降など、身体を動かした時に息切れを感じる労作時呼吸困難や慢性のせきやたんが特徴的な症状です 一部の患者では、喘鳴や発作性呼吸困難などぜんそくの様な症状を合併する場合もあります。
・階段の上り下りで息切れがする。
・せきやたんが出る。
・風邪が治りにくく、せきやたんが出る。
・喘鳴がある。呼吸のたびにゼーゼー、ヒューヒューがある。
息切れ、せきやたんが出る、喘鳴がある。
長期の喫煙歴があり慢性にせき、たん、労作時呼吸困難があればCOPDが疑われます。確定診断にはスパイロメトリーといわれる呼吸機能検査が必要です。
スパイロメトリー
最大努力で呼出した時にはける全体量(努力性肺活量)とその時に最初の1秒間ではける量(1秒量)を測定し、その比率である1秒率(1秒量÷努力性肺活量)が気道の狭くなっている状態(閉塞性障害)の目安になります。気管支拡張薬を吸入したあとの1秒率が70%未満であり、閉塞性障害をきたすその他の疾患を除外できればCOPDと診断されます。また、重症例では胸部エックス線画像で肺の透過性亢進や過膨脹所見(図1)が見られることもありますが早期診断には役立ちません。高分解能CTでは肺胞の破壊が検出され、気腫病変(図2)も発見できますが、COPDの診断には閉塞性障害の有無が重要となります。また、COPDは全身の炎症、骨格筋の機能障害、栄養障害、骨粗鬆症などの併存症をともなう全身性の疾患です。これらの肺以外の症状が重症度にも影響を及ぼすことから、併存症も含めた病状の評価や治療が必要になります。
気管支拡張薬投与後の1秒率(FEV1/FVC)70%未満が必須条件。
1秒量(FEV1): 最初の1秒間で吐き出せる息の量
努力肺活量(FVC): 思い切り息を吸ってから強く吐き出したときの息の量
1秒率(FEV1%): FEV1値をFVC値で割った値
対標準1秒量(%FEV1): 性、年齢、身長から求めたFEV1の標準値に対する割合
参考: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第5版(日本呼吸器学会)
図1 胸部エックス線※1 図2 胸部CT※2
※1過膨張と透過性亢進が見られます。
※2黒く抜けている部分が肺胞の損傷している部分です。
喫煙を続けると呼吸機能の悪化が加速してしまいますので、禁煙が治療の基本であり、残念ながらいちど壊れた肺胞はもとにもどりませんので完全な治癒の方法はありません。できるだけ早い時期に診断して適切な治療を開始することが重要です。
基本は禁煙です。
COPDに対する管理の目標
(1)症状および生活の質の改善
(2)運動能と身体活動性の向上および維持
(3)増悪の予防
(4)疾患の進行抑制
(5)全身併存症および肺合併症の予防と治療
(6)生命予後の改善
増悪予防としてのインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種が勧められます。
管支拡張薬(抗コリン薬・β2刺激薬・テオフィリン薬)を基本とされ、効果や副作用の面から吸入薬が推奨されています。長時間気管支を拡張する吸入抗コリン薬や吸入β2刺激薬が使用されています。気流閉塞が重症で増悪を繰り返す場合は、吸入ステロイド薬を使用します。
気管支拡張薬が基本です。
呼吸リハビリテーション(口すぼめ呼吸や腹式呼吸などの呼吸訓練・運動療法・栄養療法など)が中心となります。低酸素血症が進行してしまった場合には在宅酸素療法が導入されます。さらに呼吸不全が進行した場合は、小型の人工呼吸器とマスクを用いて呼吸を助ける換気補助療法が行われることもあります。症例によっては過膨張した肺を切除する外科手術(肺容量減少術)が検討されることもあります。
在宅酸素療法
まず一番はCOPDがどんなものか知ることが大切です。医師や家族まかせにせずに自分から前向きに病気にむきあってください。そして禁煙を決心し継続してください。医師から処方された薬剤は規則的に正しく使ってください。とくに吸入薬はその使用法をまもって正しく吸入しないと薬物が目的の部位まで到達せず効果がでません。また非薬物療法の項でも述べましたが呼吸リハビリテーションが非常に重要です。筋肉量がおちると息切れが強くなりさらに体を動かせなくなりいっそう息切れが増悪することになります。無理のない範囲で体を動かして体力をつけることを心掛けてください。
腹式呼吸、口すぼめ呼吸
黒→@膝を立てましょう。
青→A鼻から吸いながら、おなかを膨らませます。
黄→B口をすぼめてゆっくり吐きだしながら、おなかを凹ませます。
栄養療法もセルフマネジメントの重要な位置をしめています。COPDは呼吸するだけでもたくさんのエネルギーを消費する病期です。健康な人より多くのエネルギーが必要なことを理解して運動療法と合わせて栄養管理にも気を配ってください。一方で肥満になるとお腹の脂肪が横隔膜を圧迫して息切れを増長するので食べすぎには気を付けて肥満には注意してください。
肥満に気をつけましょう。
資料
1)COPD診断と治療のためのガイドライン2018:日本呼吸器学会COPDガイドライン第5版作成委員会編
2)GOLD日本委員会 COPD情報サイト http://www.gold-jac.jp/
3)呼吸器の病気―日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=12
新潟COPDリンクはCOPD(慢性閉塞性肺疾患)をはじめとする慢性呼吸器疾患患者さんの早期発見・診断・治療に貢献することを目的とした取り組みです。
新潟エリアの多くのクリニック、病院、検診ドック期間が協力し、2013年からこの取り組みを続けています。
どなたでもご自由にダウンロードして使用できる連携ファイルを患者さんに保管していただき、かかりつけのクリニック・病院に定期受診する際や、急に病状が悪化していつもと違う医療機関を受診する際に、この連携ファイルを持参することをおすすめしています。
COPDリンクは専門病院と診療所をつなげる情報共有ツールです。
(西新潟中央病院 HPより https://nishiniigata.hosp.go.jp/contents/bumon/comcoop/medicalcoopcopd.html)
新発田地区では現時点では しばた駅前ひらたクリニックと新発田病院呼吸器内科とで上記リンクファイルを活用した診療をおこなっていますが、今後は連携施設を拡大してより多くのCOPD患者さんのQOLの向上に役立てたいと考えております。
田邊 嘉也 (たなべ よしや)
新潟県立新発田病院
呼吸器内科診療部長
〒957-8577
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