雑文:1

空想世界のリアリティ〜モビルスーツとは何ぞや?

ガンダムの物語世界でメカの主役たるモビルスーツ。
現在プラモ市場を席巻している「ガンプラ」は、このモビルスーツのキットがメインである。

そもそもモビルスーツとは何なのか?

ガンダムの物語世界における重要なアイテムとして“ミノフスキー粒子”の存在がある。
これはレーダーを拡散させる粒子(アルミの粉みたいなもんか?)で発明者の名前(ミノフスキー博士?)をとって命名されたものである。
このミノフスキー粒子が戦闘領域にバラ撒かれているので、レーダーが使用不能になる・・・という設定になっている。

レーダーが使えない状況下での戦闘形態は、どのようなものになるのか?
敵の発見も遅くなり、肉眼でその存在を確認することになる。
離れた場所にいる敵の居場所が確認できないので、長距離ミサイルは使用できない。
そこで、パイロットが搭乗し操縦することのできるモビルスーツと呼ばれるいわゆるロボットが登場することになり、このモビルスーツ同士の白兵戦が戦闘の中心となる。

最初のモビルスーツはジオン公国が開発したMS-05。通称「ザクI」。
その後、量産型としてMS-06ザクIIが開発され、戦場に投入された結果、ジオンは地球連邦軍に対して圧倒的に優位に立つことができた。
モビルスーツ開発で遅れを取った連邦軍は、V作戦という独自のモビルスーツ開発計画に着手する。
これは単体としてのモビルスーツ開発だけでなく、それを支援する他のモビルスーツ等や母艦も含めたシステム作りのためのプロジェクトであった。
サイト7で極秘裏に開発が進められていた連邦軍のモビルスーツ第1号はRX-78-2。通称「ガンダム」。
設計者はテム・レイ・・・アムロ・レイの父親である。

この時点で連邦軍がジオンに対して技術的に勝っていたのは、ビーム兵器の開発である。
ザクが使うマシンガンが実弾を発射するのに比べ、ガンダムは実戦投入直後からビームライフルやビームサーベルを装備していた。
この点がその後の戦況に大きく影響を及ぼすことになる。

・・・てなことは、プラモの解説書やら設定資料を読めばわかる。
しかし、モデルを作る者としては、モビルスーツをもっと科学的に理解する必要があるのではないだろうか?
モビルスーツは架空の近未来世界の工業製品である。
実在しないものをリアルに作ろうと汲々としている姿は、ある意味滑稽ではあるが、真面目にその辺を考えてみることで、実在しないリアリティ(変な表現だが)に近づけるのではないかと考えた。

1:動力源
モビルスーツの動力源は核エネルギーということになっている。
現代の科学力では、どんなエネルギーを使用しても、大半は熱エネルギーに変換されてしまい、動力エネルギーや光エネルギーに変換できるのは半分以下である。
だから、熱を生じさせて水を沸騰させ、水蒸気にすることで体積を爆発的に膨張させ、発電機を動かす、という方法で原子力発電は行われているのだ。
燃料が石炭から原子力に変わっただけで、19世紀末に発明された蒸気機関のシステムは21世紀の現在も健在なのである。
自動車のエンジンは、空気とガソリンを混合させた気体を高圧電流で点火・爆発させ、膨張した空気でピストンを動かしている。
爆発的に膨張させた水蒸気や空気を利用する点で、基本原理は同じである。

ちなみにホタルは尻を光らせるのに熱をほとんど出さない。
つまり、体外から摂取したエネルギーの100%近くを光エネルギーに変換できるメカニズムを体内に有しているということである。
このメカニズムが解明されれば、人類のエネルギー問題は早々に解決されるだろう。

さて、モビルスーツだが、おそらく原子力発電と同じ仕組みで電気を作り、各部の関節にあるモーターを動かしているのだろう。
が、あれだけの巨体を稼動させるには、かなりのエネルギーが必要だろうし、付随して生じる熱エネルギーを機外に放出しなくてはならない。
冷却システムも必要だ。ないと稼動部分が焼き切れてしまう。
となれば、モビルスーツには放熱と冷却のシステムが備わっていなくてはならないことになる。
車のエンジンに相当するシステムは、モビルスーツの場合、腹部にある。
操縦席のすぐ近くだ。
操縦席付近は放っておくと温度が上昇し、パイロットが熱中症で倒れてしまう。
ガンダムにしろザクIIIにしろ、コクピット付近の胸部に放熱口らしき場所があるのはそのためだろうと推察される。
もちろんそれだけでは足りないので、体のあちこちに放熱口を設けることになる。
ガンダムの場合は肩と顔側面にもそれらしきフィンがある。
ザクの場合は動力パイプがあちこちに露出しているが、伝動系を外気に触れさせることで冷却するシステムなのだろうと推察している。
つまり、モデルを作る時に「改造だ」とか言って安易にフィンふさいではいけないことになる。
スタイルは良くなるかもしれないが、リアリティがなくなってしまうのである。
むしろディテールアップとして随所に放熱フィンを設けるのが理に適っているということになる。

それにしても、重い四肢と複数の関節を同時に動かしているのだから、やはり大量のエネルギーを消費することは間違いない。
そう言えばエネルギータンクって小さくないか?
サターンV型ロケットもスペースシャトルも、エネルギータンクが重量のほとんどを占めていたはずだ。
ま、モビルスーツが大気圏のあっちとこっちを行ったり来たりということはないだろうから、いいのか。


2:形状
モビルスーツは人型をしている。
なぜか?
人間模様を描く上で、人型をしている方が観ている側も感情移入しやすい、という製作者側の意図は理解できる。
しかし、自動車工場の作業用ロボットは腕だけという例を持ち出すまでもなく、必要な機能だけに限定すると形状が決まるのは常識と言っていい。
でも、人型。
これは、人間がするような作業をモビルスーツに代行させることが開発の目的であることを示唆している。
TVシリーズ一作目の第一話は、ザクがサイト7に侵入するシーンから始まる。
ザクはサイトの外壁に立ち、手でハッチを開けて侵入する。
実に人間的だ。
モビルスーツが現場でどういう役割をするのかを説明するシーンとして物語の冒頭で描いてしまっているのは見事である。
ロケット型ならこうは行くまい。
ようするに
「巨人がいたらこんな仕事ひょいってできちゃうのに・・・」
という古来からの巨人幻想を具現化したものだと言える。
そして存在理由を科学的に裏付けるために、ミノフスキー粒子の存在を設定に盛り込んだということなのだ。

しかし、モビルスーツによっては股間(俗に言う“フンドシ部分”)が前部に突出しているのは?
動力部分を収納するためか?
しかし、ゴックやズコックにはない。
GMもすっきりしている。
ま、これについては「動力システムの小型化」ということで説明はつく。
それにしてもカトキ・ハジメ氏デザインのザクIIIは胴体部が細すぎる。
ウエストは細いが胃弱のモデルさんを連想してしまった。(笑)

さて、モデルを作る際に考慮しなくてはならないのは
「人型をしていると全身のどこに負担がかかるか」
ということである。
我々が日常生活で最も多く傷を負う箇所は手足である。
白兵戦(=ケンカ)ということになれば、顔面もやられる。
ということを踏まえてモビルスーツの形状をよく見ると、肩やひざはアーマーでカバーしてあるものの、腕や脚が意外に貧弱なのである。
まずは脚部。
連邦軍のモビルスーツは足首にアーマーがついているが、これは可動部分を守るためだろう。
膝にはアーマーがついているが、前部しかガードできない。
ガンダムの脛なんて細いし、腿部は無防備。脚部にダメージくらったらどうする?
次に腕部。
肩が立派な割には肩から先の腕は結構貧弱だ。
武器をマニピュレーター(=手)で操作する戦闘が多いだろうに・・・腕をやられたら戦闘能力は激減する。

また、傷を負わなくても、人間の場合は過度の運動により関節を痛める。
で、モビルスーツの関節を見ると・・・細い。
関節を装甲で覆うと可動範囲が狭くなり戦闘に適さないが、それにしても細い。
パワーショベル等の重機類の可動部(=関節)がかなりゴツイのに比べると対照的だ。

そうなれば、モデルを作成する時には、手足や関節を丈夫にしてやる、または、ダメージ表現を手足や関節に集中させることでリアリティーが増すということになる。
デザイン的には、アーマーを大きくするなどいじりたくなるが、あんまり実用的ではないということだ。
ま、脚のないジオングは例外ということで・・・。


3:移動方法
基本的には二本の脚による「歩行」とバーニアによる「飛行」(リック・ドムの場合は地上のホバー走行も含む)の二通り。
空中戦ではバーニアの使用頻度が高くなるので、煤けたり鉄が焼けたりということが出て来る。
歩行では、砂や泥、土ホコリといった地面の汚れが付着することになる。
この辺は雑誌の作例でも定番になっている。
で、身体のあちこちにバーニアがついているモビルスーツがある。
これは、無重力空間で姿勢を制御するために必要なのであろうと推察される。
そういうモビルスーツは宇宙空間を主な活動場所として想定されていることになるので、泥のウェザリングを施すというのはおかしいということになる。
バーニア周辺のボディにも煤をつけてやるなどの配慮が欲しいところだ。
単体で大気圏に突入できるモビルスーツはあるのだろうか?
その形状からして空気抵抗が大きすぎるように思うので、「大気圏突入やったからこんなに焼けました」的な汚れ表現は考え物ということになる。

あ、水中用とか水陸両用モビルスーツってのもあるな。
ま、この際あんまり考えないことにしておこう。


4:頭部
コックピット内のパイロットが機外の様子を視覚で把握するために、モビルスーツの頭部にはカメラアイがついている。
一応サブカメラは別のところにあるということになっているが、ここをやられるとにっちもさっちも行かなくなるので、保護する意味もあってか、カメラアイはやや引っ込んだようになっている。
(よく見えるようにするには飛び出ていた方がいいのだが、ダメージを受けやすいという欠点がある)
さらに頭にはアンテナ、頭部や口にはなぜかバルカン砲が装備されている。
もちろん首は可動する。
この頭部を見ていると、モビルスーツが妙に人間臭い工業製品であることがわかる。
神は自分の姿に似せて人間を創造したというが、モビルスーツもそうだったのだろうか?


5:シールド
シールドを持たないモビルスーツもあるが、手に持つタイプと肩にアーマーとして装備されているタイプの2種類に大別される。
手にシールドとサーベルを持つその姿は中世の騎士を彷彿させ、近距離での戦闘を前提にした装備ということになる。
ギャンなんてモロにそうだ。スタイルを見ると実用性よりもデザイン重視であることは一目瞭然だが、マ・クベの趣味がかなり入っているんだろうなあ。(笑)
一方、肩にシールドを装備している場合は、これは側面や斜上方からの攻撃を受けた時にしか役に立たないことになるので、中・長距離での戦闘を前提にしたデザインであろうと予測される。
大抵のモビルスーツには銃とサーベルが付属しているものの、シールドを持つタイプは至近距離での戦闘を前提に、シールドが肩にあるタイプは長中距離での戦闘を前提に設計されたと考えるべきだろう。
後者には、サーベルを持たせることで近距離での戦闘ももちろん可能だ。
そう考えるとガンダムが巨大なシールドを持ち、長距離攻撃用のビームライフルから至近距離での攻撃が可能なバルカン砲を装備しているというのは、なかなか考えさせられる設定だ。
どんな状況でも戦闘可能、ということか。


6:ペインティング
形式番号がデカールに標準で入っているが、それって軍事機密じゃないのか?
しかもガンダムにいたっては「WB」って所属艦のイニシャルまで入っている。(笑)
雑誌の作例で、整備時の注意書のオリジナルデカールを貼ってあるのを見ることがあるが、その辺が妥当だろう。
またボディカラーであるが、兵器なんだからあんまり派手な色彩は避けたい。
原色を配したガンダムにせよ、シャア専用の赤にせよ、かなり目立つ。(笑)
ここは、地味目の同系色でまとめるか、迷彩塗装を施した方がリアリティがあるということだ。
ザクIIIなんて、せっかくグレー系でまとめているのに、コクピットだけが鮮やかな赤。
「ここに人が乗ってますよ」
と教えているようなものだ。
狙い撃ちされるぞ。


7:パネルライン
工業製品である以上、複数の金属板を接合して外壁を作っていく。
合わせ目をどこにするか?は、結構大きな問題だ。
飛行機を作るモデラーはその辺のこだわりがかなりありそうだ。
翼はパネルラインが少ない方が流体力学に適っているのだから当然だが。
かといって、パネルラインを完全になくしてしまうとモデルらしさがなくなってしまうということも聞く。
その辺のさじ加減が難しい。

さてモビルスーツである。
総じて曲面が多い。
自動車の製造過程においてもプレス加工で曲面を有する鉄板を作ることは実現されているが、モビルスーツの大きさと用途を考えた時にあんまり曲面が多いのはどうかと思う。
となれば、面積の大きい曲面にはスジ彫りを施してパネルラインを作ってやるとリアルになるという結論になる。
点検整備用に取り外しや開閉ができるパネルも必要になるだろう。
ジオングの作例で六角形のパネルラインをスジ彫りで表現したもの(まるでカメの甲羅!)があったが、あれ実用性はどうなんだろう?
鉛筆やハチの巣を例に出すまでもなく、確かに六角形は丈夫だが、外部からの攻撃に対する耐久性を考えると疑問だ。


8:戦闘の実際〜ダメージ
身長20m近くのモビルスーツ同士が実際に戦闘を繰り広げるとどういうダメージを受けることになるのか?
銃を使う場合は、航空機や戦車で撃たれるのと同じと考えていいだろう。
映像では見たことはないが、機体同士が直接接触するほどの至近距離で戦闘が行われた場合はどうか。
モビルスーツ同士の体当たりは自動車で言うなら衝突事故に相当する。
もちろん自動車より装甲は頑丈だろうが、重量を考えるとモノ凄い衝撃があるだろう。
パイロットの生命は?
戦闘が終わったらコクピットの中で挽肉になっていた、なんてこともあるんじゃないだろうか?
想像したくない。
ま、外部からの衝撃に対して万全の衝撃緩和の設備があるということにしよう。

さて、白兵戦になった場合、大抵のモビルスーツはビームサーベルを使う。
映画「スターウォーズ」でも使用されたこのビームサーベルとは、そもそもいかなる兵器なのか?
設定資料を見ると不活性ガスを高温高圧で噴出させているものらしい。
大気圧中に発生するネオンサインみたいなものか?
となれば、サーベルの刃同士がぶつかった場合、間違っても
「カキン!」
なんて剣劇のようなことにはならないはずだ。
お互いにスッと通り抜けることになる。
何だか間抜け。
さて、そのビームサーベルで機体に攻撃を受けた場合だが、結論から言うと高熱によるダメージを受けることになる。
すると擦過傷が残ることはない。
ザクの武器でヒートホークがあるが、これも高熱を持った刃で攻撃することになるので、装甲には外板の金属が溶けた跡が切り傷状に残ることになる。
モビルスーツ同士が肉弾戦でもやらない限りは、擦過傷はつかないことになる。
(前述したように映像でそういうシーンは記憶にない。ドムを踏み台にジャンプしたガンダムは例外)
転んで擦り剥いた、とか、どこかにぶつかった、とかいうことがない限り、カッターで擦過傷をつけるディテールアップは間違いということになるなあ。


さてさて、以上のことからリアルなモビルスーツのプラモを作るとどんなものになるか?ということで、想像してみる。

・・・想像中・・・

結論:生々し過ぎてつまらん。

そんなわけで、フィクション世界の産物なんだから、あんまりリアルさを追求しても面白くない、ということになる。
華がなくなってしまうということなのだろう。
百式は金色だから美しい。
ガンダムはトリコロールだからこそガンダム。
やっぱりシャア専用機は赤くなくっちゃ!

ようするに「カッコ良いか否か」が改造の判断基準になっているように思う。
ガンプラにリアリティは持ち込み過ぎない方がイイ、ということか。
むしろ、作る側が勝手に設定を考えてカッコ良く作るのがガンプラの了解事項になっているようだ。
空想世界の工業製品であるモビルスーツ=ガンプラに
「リアルだなあ」
というホメ言葉はあり得ない、ということだ。

いいのかなあ、それで・・・。