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しばた地域医療介護連携センター

知って得する健康講座HEALTH CARE

再骨折を予防しよう!

【はじめに】

 大腿骨近位部骨折とは、大腿骨の内、脚の付け根の部分の骨折の総称です(図1)。(整形外科では、身体の部位(場所)を言う時に、頭に近い方を「近位」と呼びます。)高齢者など骨が脆くなっている方(骨粗鬆症)に多い骨折です。閉経後女性ホルモンなどの関係もあり女性に多くみられます。高齢化の進んでいる日本では今後数十年間増加し続けると見込まれています(図2)。まれですが若年者で転落、交通事故などの高エネルギー外傷でも生じます。通常は歩行出来ない程の痛みを生じます。多くは単純X線で診断できますが、転位(骨折のずれ)が非常に小さい場合には診断が難しく、CTやMRIで初めて骨折と診断されることもあります。そのままでは治り(癒合)づらく、多くの場合手術治療が必要になり(かつては不治の骨折と呼ばれたそうです)、その後数か月の歩行訓練が必要です。手術が受けられない場合、数か月の安静が必要であり、その後寝たきりになる場合もあります。股関節は歩行などの動作に必要不可欠な関節で、その最中には非常に大きな力がかかります。

 

        図1                        図2
(大腿骨近位部骨折は頸部骨折・転子部骨折、転子下骨折を含む総称です)

もくじ
1.大腿骨近位部骨折とは
2.大腿骨近位部骨折を知る
3.検査・診断方法は?
4.大腿骨近位部骨折の治療は合併症との戦い
5.治療の基本は手術療法
6.手術後のリハビリテーション
7.再骨折しないために予防に心がけましょう
8.最後に
9.語句解説
 

【大腿骨近位部骨折とは】

 大腿骨頭はほぼ球状をしており、肩関節と同じようにさまざまな方向に曲げたりひねったりすることができる関節です。そのために大腿骨は転子部と呼ばれるふくらみと、大腿骨頭をつなぐ頚部と呼ばれる部分がくびれた形をしています。整形外科では、くびれた部分での骨折を頚部骨折(内側骨折)、ふくらみの部分の骨折を転子部骨折、すぐその下の部分の骨折を転子下骨折(転子部・転子下骨折を合わせて外側骨折)と呼び、区別しています(図1)。なぜ区別するかというと、後で述べる手術方法が異なるからです(整形外科以外の医師は、区別せずに「大腿骨頚部骨折」と呼ぶこともありますが、これは俗称になります)。大腿骨を含む全身の骨も、身体の他の部分と同じく生きている細胞からできています。骨の細胞が死ぬと「骨壊死」と呼ばれます。このため骨細胞も血液で栄養する必要があり、血管が骨の中まで入り込んでいます。大腿骨の場合、頚部がくびれた形をしているため、大腿骨頭の部分を栄養する血管は主に頚部の表面にあります(図3)。ここで骨折を生じて大きくずれると、血管が破壊されて血液の流れが途切れてしまい、元には戻りません。もし骨折部が癒合しても、後々に大腿骨頭壊死となり、壊死した骨の部分が脆くなり股関節が壊れてしまうこともあります。よって、大きくずれてしまった内側骨折ではただ骨を元の形に戻して固める手術(骨接合術)では不十分ですので、別の治療方法が必要になります。これに対し、ずれの少ない内側骨折と外側骨折は骨接合術が基本になります。骨は身体の中にずっと変わらずあり続けると思われがちですが(私も学生時代に習うまえはそう思っていました。)、骨芽細胞と呼ばれる細胞が骨を造り、他方で破骨細胞と呼ばれる細胞が骨を壊し、両者がバランスよく働くことによって維持されています。このバランスが崩れて破骨細胞ばかり元気になってしまうと、骨がスカスカになってしまい、簡単に骨折してしまうようになります(骨粗鬆症)。

                図3      

【大腿骨近位部骨折を知る】

 大腿骨近位部骨折は、通常は転倒などの外力で起こり、同時に強い股関節付近の痛みがあります。多くの場合は痛みのため救急搬送となります。高齢者では認知症を持っている方や自分の訴えをはっきり説明できない方も多く、場合によっては転倒などを目撃されずに数日経ってから「今まで歩けていたのに急に歩けなくなった」と、整形外科を受診されるケースもあります。

              

               図4
       (大腿骨近位部骨折は転倒により発症が多い)

【検査・診断方法は?】

 検査・診断は単純X線をまず行います。殆どの場合はこれで診断がつきますが、まれに殆ど骨折のずれが無い場合、全くずれの無い場合もあります。この場合は単純X線に加え、CT、MRIを追加します。CTではより細かい骨折の診断も可能です。全くずれが無い骨折でも、MRIを行うとほぼ100%診断可能です。MRIでは骨折の他に、周りの出血の様子、炎症の様子、腫瘍の転移なども知ることができます。しかしMRIは30分から40分程度、MRIの装置の中で動かないことが求められる検査です。また、費用も通常のX線よりはるかにかかりますし、病院の体制によっては緊急でできないこともあります。そのため、全ての方に行うわけではありません。CTもMRIほどではありませんが、費用がかかり、また被曝量がX線より多いという問題もあります。大腿骨近位部骨折を思わせる症状とエピソードがあるのに、単純X線で骨折が見当たらない、そういうケースでCTやMRIが追加になり、確定診断に至ります。余談ですが、閉鎖孔ヘルニアというまれな病気では、大腿骨近位部骨折に似た場所の痛みがあり、また転倒などをきっかけにその病気が起こることがあります。X線、CT、MRIを総動員しても骨折が見つけられず、CTを良く見たらその病気が判った、という例を経験したことがありました。大腿骨近位部骨折は主に高齢の方で骨が弱くなっている場合に多く起こると説明しました。そもそも状態の悪い方が多いということです。その方が、「大腿骨」という身体の中で一番大きな骨を骨折するわけですから、さらに状態が悪くなることも容易に想像できると思います。

【大腿骨近位部骨折の治療は合併症との戦い】

 大腿骨近位部骨折を起こした方の5年生存率は、多くの悪性腫瘍よりも低いことが多いという報告もあります。大腿骨近位部骨折はそれだけ状態の悪い超高齢者に多く、治療は合併症との戦いである、と言っても過言ではないと思います。治療は手術治療が基本となります。大腿骨近位部は、体重などの非常に大きい力が加わる上に、ギプスなどで固めて安静にするのが場所的に困難です。しかしながら、手術を受けられないほど状態の悪い方、元々寝たきりで頑張って手術を受けてもあまり大きなメリットの無い方、他の何らかの理由で手術を受けられない場合などには、手術ではなく保存的治療になります。その場合、下肢牽引と言って、すねから下に特殊な包帯をしてベッドの足元の方に数sの重りをロープでつなげ滑車で吊るして、脚を身体の下に引っ張る治療をします。大腿骨近位部骨折をしてしまうと股関節の回りの大きな筋肉が同時に縮まろうとします。骨折を起こしている部分でずれてしまうため(転位といいます)、それらを元の位置に近い状態で維持して骨がつく(癒合する)のを待つわけです。動かないことで痛みを和らげる目的もあります。これには数週間、場合によっては数か月かかることもあります。これだけの間、ずっとベッド上安静をしなくてはならないわけです。すると脚の力が落ち、また歩くのは厳しくなってしまうだけでなく、繰り返しになりますが床ずれ心不全肺炎深部静脈血栓症や持病の悪化などで命に関わることもあります。状態の悪い高齢者は寝かせておくだけでどんどん具合が悪くなるのです。そこで、可能な方はできるだけ早く手術を行って歩行訓練に移ることが望ましいです。

【治療の基本は手術療法】

 手術は大きく分けて骨接合術、あるいは人工骨頭挿入術が基本です。先ほどの大腿骨頭壊死という病気を起こす恐れがあるため、転位の大きい内側骨折は高齢者では主に人工骨頭挿入術(図5)を行います。転位の少ない内側骨折と転子部、転子下の外側骨折は骨折した骨を引き寄せて金具で止める骨接合術を行います(図5)。

                図5
      (左から人工骨頭、ガンマネイル、ハンソンピン)


【手術後のリハビリテーション】

 手術後は速やかに歩行訓練を行います。筋力低下や合併症を起きにくくするためです。数週間リハビリ(図6)の後、元々の歩きよりも1ランク下がったところ(例:独歩→杖歩行→歩行器歩行→車椅子移動→ベッド上運動など)がひとまずのゴールになります。その状態で、元の生活に戻るか、一旦リハビリ転院、施設入所などを経て元の生活を目指します。これらの治療を全て上手く行うためには適切な診断・手術治療はもちろんですが、医師、看護師、理学療法士(作業療法士)、ケースワーカー、リハビリ転院を受ける療養型病棟のスタッフ、と多種の職種間で密な連携、チーム医療が成り立っていることが必要です。近年ではリハビリ転院までを網羅した「大腿骨近位部骨折連携クリニカルパス(図7)」を立ち上げて、職種間、病院間での連携を図っている施設が増えてきています。

 

    図6                         図7
                (地域連携クリティカルパス)

【再骨折しないために予防に心がけましょう】

 再受傷をしないために、患者さんができる予防法について、これは良く聞かれる質問ではあります。しかしながら、一度大腿骨近位部骨折のハイリスク(ご高齢、骨粗鬆症、筋力低下、内科的疾患の合併)となった患者さんが具体的にどうすれば再受傷を防げるかという問題は、正解がありません(図8)。現在の医学では一度進んでしまった骨粗鬆症や筋力低下をもとの状態にすることがかなり難しいからです。一度受傷された患者さんを、転倒が怖いからと言って全く動かさないでいるとますます廃用によって筋力低下が進みます。すると転倒のリスクは更に上がる悪循環に陥ります。やはり可能な範囲で見守り下に歩行訓練をして頂く必要があると考えています。大腿骨近位部骨折を減らす一番の方法としては、やはり骨折のハイリスクとなる以前の治療や啓蒙が重要だと考えられます。近年、骨粗鬆症の健診、治療やロコモティブシンドロームの講演会などが行われつつあります。お時間があればこうした活動に足を運んで頂き、大腿骨近位部骨折は他人事ではなく高齢者誰にでも起こりうることであると理解し予防に取り組んで頂くことが重要であると考えます。

           

               図8
         
 (骨折には予防が大事です。)

 手術治療が積極的に行われる以前では、大腿骨近位部骨折を起こすと寝たきりになる確率がかなり高いと言われていました。現在大腿骨近位部骨折に対して積極的に手術が行われ、最終的に歩行ができる方が増えています。大腿骨近位部骨折を受け入れる多くの急性期病院では整形外科医師も救急外来・病棟スタッフも24時間体制で受け入れ、可能な限り早期手術、リハビリ、退院(転院)を目指して治療していますが、職種間の連携がとても重要と考えます。連携が上手く行かないとスタッフの努力も十分に報いられず、場合によっては疲弊して行きます。それは整形外科分野に限ったことでは無いと思います。(良い意味で)職種間の交流を図り、連携して治療に携わって行くことが、より良い医療を作って行くと思います。また患者さんのリハビリ継続、転院手配にはご家族のご協力が不可欠です。

       

              図9
    (運動療法、薬物療法、栄養管理、転倒予防対策が重要です)

【最後に】

 新発田病院では平成30年度大腿骨近位部骨折の手術件数が300件を超え、県下第一位となりました。全国でも有数の症例数です。過疎高齢化の進む阿賀北地域では、今後も大腿骨近位部骨折の患者さんは増加して行くと考えられております。皆様のご理解とご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

【語句解説】
 5年生存率 
 様々な病気(疾患)の生命に関わる危険度、その後の予後をあらわす指標として、病気になった時や手術をしてから5年後の時点で何割の患者さんが生存しているかを算出した割合。

 
合併症
 ある病気を治療している途中に、意図せず他の症状、病気が出現すること。例:大腿骨骨折治療の途中で患者さんが肺炎になった場合など。

 保存的治療 
 手術ではなく、他の方法で怪我や病気を治すこと。例:骨折をギプスでしばらく固めて治すこと、など。

 
クリニカルパス 
 患者さんが入院してから退院(転院)まで、またはその後まで、できるだけスムースに治療出来る様に、手術やその後のリハビリ等の治療スケジュールを標準的な場合に則ってタイムテーブル化し、そのテーブルに沿って治療していくこと。何らかの理由でスムースに治療できない場合は一旦パスから外し、治療が軌道に乗ったら再びパスに乗せてそのスケジュールで治療再開する場合もある。

     著者プロフィール                              

須田 健 (すだ けん)
新潟県立新発田病院 整形外科医

日本整形外科学会認定専門医




プロフィール                         </p>
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