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知って得する健康講座HEALTH CARE

骨粗しょう症に負けず、健康長寿を目指そう!

【はじめに】

 皆さまは『骨粗しょう症』という名前は聞いたことがあると思います が、どういう病気なのか理解されておりますでしょうか?外来で患者のお話しをうかがっていますと、知っているようで知られていない、分かっているようで理解されていない、それが骨粗しょう症なのではないかと思っております。今回は皆さまからよく聞かれることを9個のQ&Aにまとめてみました。さて、皆さまはどれくらい理解されているでしょうか?

 もくじ
【Q1】骨粗しょう症ってどんな病気
【Q2】骨粗しょう症の患者さんはどれくらいいるの?
【Q3】骨粗しょう症はどんな人がなりやすいの?
【Q4】骨粗しょう症の人はどのような骨折を起こしやすいの?
【Q5】骨折を起こすとどうなるの?
【Q6】骨粗しょう症はどうやって診断するの?
【Q7】骨粗しょう症にはどんな症状があるの?
【Q8】骨粗しょう症にはどんな治療があるの?
【Q9】骨粗しょう症で注意することは?

【Q1】骨粗しょう症ってどんな病気?

『骨粗しょう症』というと多くの方は『骨密度が減って…、骨がスカスカになって…』ということを想像されるかと思います。それも強ち間違いではありませんが、骨粗しょう症は『骨の強度が低下をして、骨折を起こしやすくなる状態』を指します。骨の強度のうちの70%程度を骨密度(骨の中のカルシウム量)が占めているころ、また骨密度測定が骨粗しょう症検診等で最もよく使われるため、『骨強度=骨密度』をお考えになられる方も多いのではないかと思います。
 骨は私たちの体の中で、古い骨をけずる『骨吸収』とけずった部分に新しく骨を作る『骨形成』をたえず繰り返し、骨の量(骨密度)を保つように調節をしています。しかしながら加齢、特に女性は閉経後に女性ホルモンがなくなることにより骨吸収が増加し、骨密度が低下をしてきます(図1)そのほかに、骨の中に小さいひびが蓄積されたり、カルシウムがくっつくコラーゲンの柱が劣化することにより骨密度とは別に骨の強度は低下をします。同じ骨密度でも骨折のしやすさが異なるのはこのためと考えられています。


図1

【Q2】骨粗しょう症の患者さんはどれくらいいるの?

 日本に骨粗しょう症の患者さんは男性300万人,女性1000万人,合計1300万人ほどおり、40歳以上の男性の約15%,女性の35%が該当すると考えられています。そして年間約100万人ずつ新しく骨粗しょう症の患者さんは増加しているという報告もあります。つまり骨粗しょう症は『高齢者だけの特殊な病気』ではなく、『誰もがなりうるごく一般的な病気』という理解が必要かと思われます。
 先ほど骨粗しょう症の患者さんは日本に約1300万人いるとお話ししましたが、これは高血圧で薬物治療をしている方よりも多い数です。皆さんのまわりに高血圧で薬を飲んでいる人はたくさんおられるかと思いますが、驚くことに骨粗しょう症の患者さんはそれよりも多く存在します。逆にみなさんのまわりに骨粗しょう症の薬物治療をしている方はたくさんいらっしゃいますか?あまり多くはないのではないでしょうか。骨粗鬆症の薬物治療をしている方は約200万人と推定されており、治療が必要とされる患者さんの7人に1人程度しか治療を受けていないのが現状です。おそらく骨粗しょう症という病気に対する関心や認知度の低さが影響しているのではないでしょうか。

【Q3】骨粗しょう症はどんな人がなりやすいの?

 生活習慣としてカルシウムを多く含む乳製品や魚類,豆類を摂取しない方,運動習慣がない方,アルコールをたくさん(ビールで1日600mL 以上)飲まれる方,喫煙をされる方は骨折の危険性が高くなると報告されています。ほかにやせ型の方,ご家族(ご自分の両親,兄弟,祖父母)に骨折歴のある方も注意が必要です。骨粗鬆症を引き起こしやすい内科的な病気としては肝疾患,腎疾患,呼吸器疾患が挙げられ、膠原病などで副腎皮質ステロイドホルモン薬を飲まれている方は特に注意が必要です。
加齢に伴う骨粗しょう症の場合、男性は70-75歳,女性は65歳ころからその危険性は高くなりますので(図2)、心配な方は早めに医療機関の受診をお勧め致します。


図2

【Q4】骨粗しょう症の人はどのような骨折を起こしやすいの?

 骨粗鬆症にともなって起こしやすい『4大骨折』は1)上腕骨(肩)骨折,2)橈骨(手首)骨折,3)椎体(背骨)骨折,4)大腿骨(ももの付け根)骨折です(図3)。ほかに、足関節(足首)骨折,肋骨(あばら)骨折,骨盤骨折などが挙げられます。この中で最も多いのが椎体骨折と考えられております。椎体骨折はおよそ2/3の方が症状が全くない,またはごく軽度である、いわゆる『いつの間に骨折』であると言われているため、実数が正確には把握できておりません。大腿骨骨折は日本で1年間に約18万人,新潟県内でも3200人くらいが骨折を起こしていると報告されております。椎体骨折も大腿骨骨折も一度起こすと介護が必要になったり、寝たきりになりやすい骨折ですので、注意が必要です(詳しくはQ5で)。


図3

【Q5】骨折を起こすとどうなるの?

 骨折の中でも椎体骨折と大腿骨骨折は介助や介護が必要になったり、寝たきりになりやすいことが分かっています。現在要介護・要支援の12%が骨折によるものと考えられております(図4)。現在平均寿命のほかに『健康寿命』を延ばそうといことが言われております。『健康寿命』とは『心身ともに自立し、健康で生活できる期間』を指します。言い換えると介護や介助がなくても生活できる期間のことを指します。図5で示すように、健康寿命と平均寿命の差は男性が9年,女性が12年ほどあり、この期間は誰かしらの手を借りないと生活できない期間であり、この期間の差が大きくなるほど医療費や介護負担が大きくなると言えます。意外に長いと思いませんか?そのため私たちは、『骨折は起こしてからでは遅い、未然に防ぐ必要がある』と考えております。
 また椎体骨折があるとほかの椎体骨折や大腿骨骨折を起こしやすいことが分かっており、骨折を重ねると自分で満足に動くのが困難になります。そのため、『骨折を未然に防ぐ』ことが望ましいのですが、ひとつ骨折を起こしてしまった場合は『次の骨折への連鎖を断つ』ことが健康長寿を目指すうえでは重要となります。
 近年、骨折患者の介護負担の大きさが問題となっております。骨折患者の介護のために転職や離職を余儀なくされる方が少なくなく、また復職が非常に困難であることが指摘されています。つまり、骨折は本人だけの問題ではなく、経済的,肉体的に『自分の家族,子ども,孫の世代の介護負担を増やす』ことになるのです。


図4            図5

                               

【Q6】骨粗しょう症はどうやって診断するの?

 現在最も多く使われているのは骨密度測定検査で、腰椎と大腿骨で行うDXA(デキサ)法検査が最も信頼できる検査と考えられております。ほかに手首で行うDXA法検査や踵で行う超音波検査も骨密度測定が可能ですが、診断の確定や経過観察には不向きな検査であると考えられております。手首や踵で低かった場合は腰椎や大腿骨で再度検査を行うのが望ましいと思われます。
 また、骨密度に関わらず、50歳以降で軽微な外傷で骨折を起こした方は骨粗しょう症である可能性が高いと思われます。特に椎体骨折は先ほど述べたように症状がほとんどないことも少なくないので、背中が曲がってきた方,身長が若い時より3cm以上低くなった方はレントゲン検査で『いつの間にか骨折』がないことを確認することをお勧め致します。

【Q7】骨粗しょう症にはどんな症状があるの?

 一般的には骨粗しょう症自体に症状はほとんどありません。そのため、本人も知らない間に徐々に骨粗しょう症が進行し、骨折を起こして初めて分かる、というケースが少なくありません。また、先ほど述べたような『いつの間にか骨折』を起こしていても気付かれないケースもしばしば見られます。この事から、ご自分が骨粗しょう症かどうかを判断するためには、検診などで骨密度検診を受けたり、レントゲン検査で『いつの間にか骨折』がないかを定期的に調べる必要があります。しかしながら、骨粗しょう症はほとんど症状を現さないためか、骨粗しょう症検診率はきわめて低いことが報告されております(図6)。くり返しますが、一般的には骨粗しょう症自体に症状はほとんどありません。骨折などで症状を出したときにはもう手遅れ、ということがないように、ご自分で注意をしていく必要があります。


図6

【Q8】骨粗しょう症にはどんな治療があるの?

 骨粗しょう症の治療には主に1)食事療法,2)運動療法,3)薬物療法の3つがあります。年齢や骨粗しょう症の程度により選ぶ治療法も若干異なってきます。

1)食事療法
多くの方が、『骨粗しょう症=カルシウム』とお考えになっているかと思います。もちろん骨の主な材料であるカルシウムも大事なもののひとつです。しかし、カルシウムだけ摂取しても、それが十分に体に取り込む,骨にくっつけるためにはほかの栄養素も必要です。そのため、まずはバランスの良い食生活を心がけることが重要で、その上でカルシウムやカルシウムの吸収を助けるビタミンDの摂取に努める必要があろうかと思います。ビタミンDは日光を浴びることで皮膚から産生されます。暑すぎない天気のいい日に運動もかねて外を15分程度散歩するのも良いかと思われます。詳しくは図7に載せました『さあにぎやかにいただく』、これを是非ご活用ください。


図7


2)運動療法
運動療法には3つの意義があります。@ 運動自体でも骨密度がわずかながら上昇させ、骨を強くすることが分かっております。A 運動で筋力を維持することにより、骨にも刺激を与え、骨強度の維持をすることができます。B 運動で下肢や体幹の筋力を維持し、またバランス能力を維持することにより、転倒予防を行うことができます。高齢者の骨折の多くは転倒により生じることが分かっております。そのため、『転倒をしない体』を作ることは骨折の予防にも直結します。くわしくは図8をご参照ください。


図8

3)薬物療法
食事療法や運動療法より確実かつ早く骨強度の改善が望めます。現在たくさんの薬物が販売されております。それぞれの薬剤の利点・欠点(どの骨折を予防できるのか、若年者向けなのか、高齢者向けなのかなど)をよく理解し、それぞれの患者さんに適した薬剤を選択する必要があります。
 骨粗しょう症の治療はこれら3つを組み合わせて行う必要があります。患者さんの中に『薬は飲みたくないので、食事と運動だけで何とかしたい』とおっしゃられる方がいらっしゃいます。一般的には60歳以上の方、50歳以上になって骨折を起こしたことがある方は食事と運動だけで十分に骨強度を上げることは非常に難しいと思われます。そのような場合は『薬物治療に食事と運動を同時に行い、早く十分に骨強度を上げて、その後薬物を止めて、食事と運動だけで骨強度を維持する』という考えを持たれるのが現実的ではないでしょうか。

【Q9】骨粗しょう症で注意することは?

 患者さんから『一度治療を始めたらずっと続けなければならないのでしょうか?』と良く聞かれます。骨粗しょう症の治療は『3から5年の間に十分な骨強度を得た上で終了する』のが原則です。そしてそのためにどのような治療(薬剤)を選択すべきかを考えるのが、私たち医師の仕事です。もちろんすべての患者さんにこれが当てはまるわけではありませんが、基本的に骨粗しょう症の治療はずっと続けるものではないとお考えください。
 長期間骨粗しょう症の薬物治療をしている方に起こりうる合併症のひとつに『顎骨壊死』があります。起こる可能性は10000人に1人程度と報告されていますが、一度起きると治りにくい病気です。そのため、骨粗しょう症の薬物治療をされている方は@ 治療していること,使用している薬剤を必ず歯科の先生へ伝えてください。薬のすべてに危険性があるわけではありませんし、危険度の高さも患者さんにより異なります。治療薬を一時的にやめるかどうかは処方医または歯科医の指示に従い、自分の判断で勝手に治療を中止しないでください。A 口腔内ケア(歯磨きなど)は欠かさず行いましょう。不明なこと,心配なことは処方医または歯科医に確認をしてください。

【さいごに】

 骨粗しょう症は誰でもなりうるごく一般的な疾患です。しかしながら症状がほとんどないため、普段から生活習慣に気を付け、可能であれば検診などで自分が骨粗しょう症かどうかチェックする必要があろうかと思います。
一度骨折を起こすと介護が必要になったり寝たきりになりやすいので骨折を未然に防ぐ必要があります。骨折を防ぐには骨粗しょう症の治療だけでなく、転倒予防も重要です。『折れない骨』と『転ばないからだ』を作り、それを維持し、骨粗しょう症に負けず健康長寿をめざしてください。

著者プロフィール                              

今井 教雄 (いまい のりお)
新潟大学大学院医歯学総合研究科 地域医療長寿学講座 特任准教授

日本整形外科学会認定専門医
日本整形外科学会骨粗鬆症委員会
新潟血栓塞栓症研究会幹事
新潟県骨粗鬆症対策事業連絡協議会幹事,世話人
骨粗鬆症学会認定専門医

プロフィール                                

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