研究主任のお仕事


bP2    言葉の使い方

新年度の校内研究全体計画を研究全体会で提案した。
テーマは「基礎学力の向上」である。

研究全体計画を提案するのは、これで5回目。
そのうち3回は、前年度とは全く違う新しいテーマで提案してきた。
今回は、新しいテーマで提案した3回目だったが、なかなか苦しかった。

理由を考えてみた。

全員が共通理解できる言葉がなかなか見つからない

一言で言うなら、こういうことになる。

「基礎学力の向上」は、昔から言われており、最近になって再び重視されている「古くて新しいテーマ」である。
基礎学力を語るのに使われる言葉は、教員の世界では重要語句になっているものばかりである。

一つの言葉を全員が同じ概念でとらえることが難しい

普段使い慣れている言葉ほど、個々の定義がバラバラで曖昧なのである。
日常生活でよく聞く「愛」「優しさ」なんて言葉を個々で定義したら、百人百様の返事が返ってくるだろう。
それと同じ状態だ。

もう一つ。
「基礎学力の向上」という耳慣れた概念を、耳慣れない言葉で説明されたために違和感が生じた、ということも考えられる。

例えば、今回「確かな基礎学力」という言葉を使うのに、私は最初に以下のような三つの条件で定義した。

1:汎用性が高い(=他の学習に転用できる力である)
2:定着度が高い(=いつでも使いこなせる力である)
3:客観性が高い(=十分な事実に裏づけられた力である)

当時のメモによると、こう説明されている。

1について
他の学習(ひいては日常生活)に転用できることが可能である、ということが「基礎学力」の「基礎」たる所以だろう。
いや、転用する力があって初めて「基礎学力」となるのかもしれない。
2について
ようするに、いつでも使いこなせる力(=技量)となっていなければ、「確か」とは言えない。
1とも関わってくるが、技となって自分に染み込んで初めて「確か」であると言える。
3について
主観では駄目なのだ。
誰が見ても「高い」と判断できる状況を呈していれば、「確か」であると言える。
つまり、市販テストや標準学力テスト、県の学力改善調査、月々の漢字計算テストで成果が見えるということだ。

これで説明したのだが、すんなりと理解してもらえなかった。
結局、書き換えた。
出来上がったものに、違和感は残ったが。

私は、言葉にこだわるが固執はしない。
誰もが理解できる言葉があるのならば、すんなりそれを取り入れて、自分が出した言葉を引っ込める。
しかし、否定されても代案が示されなければ、私はお手上げとなってしまう。

料理人が作った料理を、料理人が食べる。
「これは不味い」と論じるだけなら、料理人でなくてもできる。
料理人ならば、「こうすれば美味くなる」ということを示さねばならないだろう。

同じ立場に立って論じて欲しかったなあ、という思いが残った。

研究主任には(研究主任に限らず他の立場でも)こういうことがしばしば起こるのである。
故に、こう言う人もいる。

「研究主任は孤独だ」と。

2003.04.29記