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ES細胞研究 アメリカの報道から


 米国ではこの一ヶ月の間で、ES細胞の研究に関する記事が、新聞や雑誌で目立って多く取り上げられるようになりました。ニューヨーク・タイムズ紙も連日、ES細胞研究に関する記事が何かしら載っています。

 これは、ブッシュ大統領が、この7月末までにはES細胞の研究に連邦国家予算を使うことを承認するかどうか、結論を出す方針を受けてのことです。ブッシュ大統領は自身の支持率の低迷もあって、この問題をかなり慎重に検討しているようです。決定を前にして賛否双方の意見や要望が出されています。

 17日には議会の公聴会で賛否両論、不妊治療を受けた人からの反対論、糖尿病、パーキンソン病の患者からの承認を求める意見が出されました。

 また、記事が増えているのは、こんな中、注目すべき2つの発表があったからです。
 一つは7月11日にヴァージニア州のJones Instituteでは、始めから研究用のES細胞を作る目的のため有償で提供された卵子、精子からES細胞を作り出したとの報道がありました。

 これに関しては、以前から「実際の研究現場では報道されているよりもずっと進んでいるのではないか」というニュアンスの記事もみられ、マスコミのほうからかなりの圧力があって発表されたようです。昨年の10月頃から、一部の研究者の間では、この話は知られていたようです。

 もう一つは翌7月12日にマサチューセッツ州ウォーチェスターの研究所が、クローン技術を使ってES細胞を作っているという報道がありました。
 こういった報道もありブッシュ政権はこの問題をどう解決していくか、かなり苦慮しているようです。ブッシュさんの姿勢を決めていく上で最重要なアジェンダになっています。

 今週号のタイム誌がよくまとまっているのではないかと思います。こちらをご覧下さい。
 http://www.time.com/time/2001/stemcells/ (k)


 ヒト胚はヒトかヒトではないか、それが問題だ(浪速のシェークスピア)

 ES細胞の研究が進むことは、病気に苦しむ患者とその家族にとっては朗報なのですが、そのためだけに卵子を有償で手に入れES細胞を作るとなると、考え込んでしまいます。生命倫理に関する議論が未成熟な中で、これまでは不妊治療を目的として産生されたヒト胚のうち使われなかった胚、つまり余剰胚のみが用いられてきました。それすら、不妊治療の当事者からは嫌悪感が寄せられています。不妊治療を目的としていたかどうかだけの違いで、医学的な手順は何ら変わりがないのでしょうが、生命に関わることだけに、その目的が重要なのでしょうか。

 それ以上に「ヒト胚は生命か」という哲学的な問題を避けては通れません。4月に総合科学技術会議に答申された「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」でも、「ヒト胚が人の生命の萌芽であることに配慮し」と慎重な言い回しです。「生命の萌芽」とは生命とも取れるし、生命ではないとも取れる。これをクリヤーしないと、ヒト胚からES細胞を取り出すときの「胚の破壊」を「殺人」と指摘する反対論者を説得することができません。

 日本は欧米と違って宗教的な基盤が薄いので、生命倫理に関する議論で世界をリードできるかも知れません。キリスト教の世界は良く存じませんが、神を創造主と位置付ける宗教感では「神への冒涜」という意見を抑えるのは難しいのではないか。その点、日本は死後の世界へのこだわりはあっても、命の誕生には割りと淡白な国民性ですから、宗教を抜きにした冷静な議論をリードできるかも知れないと思っています。

 Kayさん、time.comのご紹介有難うございました。英語が余り得意じゃないもんで、読んでみましたが、良く判りませんでした。(^^; 差し出がましいようですが、日本語の情報をご紹介させて頂きます。(案山子)


 ヒト胚がヒトか否か・・・生命の出発点であることは間違いないですから難しい問題ですね。はっきりいって私には分かりません。世論の流れで変わってしまいます。
 ヒトとはみなさない・・・雨上がりに出来た水溜りのようなもの?
 消えていくけれど 地下水にはなる。
 ヒトである・・・大きな川の流れにつながる小さな、小さな水源?
 ・・・・こういった感じでしょうか。

 しかしながら、今回のJones Instituteでの研究目的のためのES細胞作成にはやはり複雑な思いがします。 Instituteでは12人の女性と2人の男性を選び、卵子提供者には各1,500ドルを精子提供者には各50ドルを支払っています。

 12人の女性には排卵を促すようホルモン注射をしています。
 倫理的な問題はクリアーしているとして高い評価をする人もいますが、やはり、戸惑いとともに反対意見も多いです。

 卵子、精子提供者には充分な配慮がなされてはいるが、ヒト胚に関しては全く配慮がなされていないという意見や、不妊治療で不用になり、冷凍保存された胚を使うにとどめるべきだという意見。アメリカ小児科学会からはES細胞の研究は支持するものの、不妊治療の過程で不用になった胚を使うべきだとの表明が出ています。

 ブッシュ大統領は今週月曜日に、ローマ法王ヨハネパウロ2世に会うとか。
 パーキンソン病を患う法王を目の当たりにして、大統領は何を思うでしょう。
 法王のほうから再生医療にかかわる発言が、何かしらあるのではないのでしょうか。
 興味深いところです。(k)


 法王がパーキンソン病と再生医療に言及するとしたら、そのこともさることながら、キリスト者の方々の反応の方も興味深く思います。
 ところでキリスト者にとって法王は、どのような位置づけにあるのでしょう。現代人のキリストに最も忠実な僕?(わからん????)(s)


 参考までに、生命倫理に関する国の動向をまとめました。出典は総合科学技術会議のもとに設置されている生命倫理専門調査会の資料です。

●これまでの動向
1997年 9月科学技術会議に生命倫理委員会設置
1998年 1月生命倫理委員会のもとにクローン小委員会設置
1999年12月「クローン技術によるヒト個体の産生等について」
1999年 1月生命倫理委員会のもとにヒト胚研究小委員会設置
2000年 3月「ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究について」
2000年11月国会審議を経て「クローン技術規制法」成立
2001年 1月内閣府の総合技術会議に生命倫理専門調査会設置
2001年 4月文部科学大臣諮問「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針について」
2001年 6月クローン規制法施行(クローン胚の母体への移植禁止)

●これからの動向
1)「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」への答申→できるだけ早い時期に
2)「特定胚の取り扱いに関する指針」(文部科学省諮問予定)への答申→2001年11月までに
3)ヒト受精胚の取り扱いのあり方→2003年秋を目途に結論

 1)については、総合科学技術会議が文部科学大臣から諮問を受けた形になっており、早い時期の答申が期待されます。ただし、これは先行する医療技術に対する当面の対応策でして、本来先にあるべき3)の議論が後回しになっています。いつの世も、法律や指針が後追いする残念な姿ですね。

 ちなみに生命倫理専門調査会のメンバーはこちら↓です。(PDF形式)
 http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/life/haihu01/siryo3.pdf (案山子)


 ヴァージニア州のJones Instituteでは始めから研究用のES細胞を作る目的のため、有償で提供された卵子、精子からES細胞を作り出したとの報道は日本でもありましたね。
 4段階の倫理審査をクリアしていると書いてありました。ただしその審査基準内容は紹介されていません。

 いずれにしてもブッシュさんの判断がどう出ようと、ES細胞を使っての研究は行われるでしょう。クローン人間は遠い先の話に過ぎないでしょうが、すでに身体のパーツづくりは始まっていると思います。

 最早後戻りしないのなら、自分の体内から取り出したES細胞を使って神経細胞を作り出すことが可能であれば、研究して貰いたいという気持にはなります。(s)