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遺伝子治療


 12月9日の日経新聞に、「パーキンソン病の遺伝子治療にメド」との見出しで、自治医大神経内科などによる共同研究グループがドーパミン合成に必要な3種類の酵素を作り出す遺伝子をアデノ随伴ウイルス(AAV)に組み込んでパーキンソン病にしたラットの脳に送り込み、その後1年半の間パーキンソン病の症状の回復が持続、さらにパーキンソン病にしたカニクイザルの脳に同様の処置をしたところ、手の運動障害が改善した」との記事が載っていました。

 この記事に関連して、雑誌「細胞工学」18巻6号1999年に載っている自治医大遺伝子治療研究部 小澤敬也先生の論文を参考にもうちょっと詳しくこの遺伝子治療についてまとめてみました。

 最近のP病に対する新しい治療法のひとつとして幹細胞移植などの移植治療が注目を浴びているが倫理的な問題は避けては通れない点がある。そこで将来的により大きな可能性をもった治療戦略として遺伝子治療の応用が注目されている。治療用遺伝子としては、対症療法的アプローチとしてドーパミン合成酵素遺伝子を利用するやり方と、P病そのものの進行をくい止める対策としてニューロン保護作用を持つ神経栄養因子の遺伝子を用いる方法の2種類が研究されている。

 今回の報告は前者のものである。遺伝子治療には遺伝子のほかにその遺伝子の運び屋としてベクターが必要である。ベクターにはウイルスベクターと非ウイルスベクターが開発されているが、それぞれ特徴があり、目的に応じて使い分けられている。

 現時点で神経系の遺伝子治療に最も適したベクターはAAVベクターだと思われる。このベクターは安全性が非常に高く、また比較的長期の遺伝子発現を期待できるなどの特徴があるのでニューロンや筋細胞を標的とした遺伝子治療に特に適していると思われる。欠点はベクターを作製すること自体が難しく、特に臨床レベルでのベクターの大量作製システムの確立が臨床的応用を可能にする上で今後の課題となっている。

 しかし、AAVは重複感染が可能なため、複数の遺伝子を別々のベクターを用いて同一の標的細胞に導入することができる。今回はドーパミンを作るのに必要な3種類の酵素を作る遺伝子がもちいられたわけである。

 ドーパミン生合成経路は、L−チロシン--->L−ドーパ--->ドーパミンという経路で行われる。L−チロシンからL−ドーパを合成するときに働くのがチロシン水酸化酵素(TH)、L−ドーパをドーパミンに変換するときに働くのが芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)である。

 今回はこの2つの酵素の他に、THの補酵素としてはたらく物質の合成経路に関わる酵素であるGTPシクロヒドロラーゼ(GCH)を追加した3つの酵素の遺伝子が用いられたものと思われる。

 今回の遺伝子治療法はドーパミンを産生させる方法であって、ドーパミン系ニューロンの変性を阻止するものではないので、P病自体の進行をくい止めることはできない。

 最近、ニューロン保護作用を持つ神経栄養因子であるGDNFやBDNFなどが注目されている。そこでこれらの神経栄養因子(特にGDNF)の遺伝子をP病の遺伝子治療に応用する動きも活発になってきている。このようなアプローチはP病の進行を遅らせる効果をもつものと考えられ、今後の展開が期待される。

 数多くの神経変性疾患のなかでもP病は遺伝子治療に適している代表的疾患と見なされており、ラットでの実験からさらに進んでサルを用いた前臨床試験も進んでいると今回の報告にもあることから、P病治療の今後はさらに明るいものになってきたといえる。(よ)


 これに関連して,1月7日付朝日新聞第1面に,「細胞再生薬臨床応用へ」と言う記事が載っていました。内容は次のとおりです。

 「細胞や臓器の再生物質として注目される肝細胞増殖因子(HGF)を使った治療が今春にも始まる。肝臓は7割切除されてももとに戻る。HGFは肝臓の再生物質として、1984年に発見された。

 その後の研究で、肝臓に限らず、ほとんどの臓器細胞が壊死するのを防ぎ、修復、再生させることが分かってきた。動物に病気を作ってHGFを注射すると、急性肝炎や急性腎炎などで、瀕死の細胞が生き返るなどの劇的な変化が起きた。筋ジストロフィー症や、パーキンソン病などの難病も、進行が止まったり、症状が改善したりした。動物実験では、がん以外のほとんどの病気に有効だ。」

 これは、神経栄養因子とも少し違う遺伝子治療のようですね。色々な面からのアプローチがなされているようで、こんな報道に接するたびに、希望をかき立てられます。希望を感じるときには、PDの症状はぐっと軽くなります(私の場合はですが)。今年も明るく生きていきたいです。(は)


 病歴が長くなると、対症療法とともに、限りなく根本的な治療に近い研究に期待してしまいますね。それにしても私たちがこういった恩恵に与れるのはいつ頃になるのでしょう。確かにこの数年の進歩はめざましいものだとは思います。

 1995年にNatureでみたGDNFの研究は皆、ラットだけのものだった。それから、ラットからサルを使った研究へ。1997年のナショナル・パーキンソン財団のレポートには、GDNFはサルでの研究で成果を出しているものの、まだまだ限られた動物での実験であり、さらに、欠点として投与の方法が手術で大脳の脳室に直接注入しなければならないことが挙げられる。

 経口投与が可能な薬の研究も行われているものの、いまだかなり遅れている。・・・と記されていました。今年に入ってから、経口投与が可能になったギルフォード社とアムゲンのGPIや同じく神経細胞の再生を可能にするGM1の発表。

 GPIについても、アメリカのFDAで認可が受けられるような安全で効果的な薬にできるかどうかの保証は無いとのコメントがあるものの、なんかとても期待が持てそうな気がします。

 PLWP org. (People Living with Parkinson's)のサイトで、Majoさんという人の投稿があります。フィラデルフィア、トマス・ジェファソン大学の二重盲検法の治験でGM1を受けていて効果があると言っています。治験の性格上詳しい事はいえないが、すでにこういった薬が存在していてテストされている事を知ってほしい。

 治験に参加したら? 失う物は何も無いんじゃない? フィリー(フィラデルフィア)でお会いしましょう!! ・・・・なんて呼びかけていますよ。 http://www.plwp.org/ でEntrance to PLWP から、PLWP News from the Front Linesに進むと出てきます。参考まで。(k)